済・高円寺駅前皮膚科 | 日記 | ざそう(ニキビ)、脂漏性湿疹(ふけ症)、酒さ(赤ら顔)、… ─ セボレア 脂性 の理論皮膚科学・新


2014/05/11
ざそう(ニキビ)、脂漏性湿疹(ふけ症)、酒さ(赤ら顔)、… ─ セボレア 脂性 の理論皮膚科学・新


ざ瘡=にきび ─ 面皰 めんぽう を初発疹とする炎症性皮膚疾患
・院長、アブラしょう、で困っております。ただ、もはや枯れました、諦めました。
 そんな私だからこそ断言できるのですが、脂性が皆ニキビになるわけではありません。
   ニキビの定義としては、「面皰に始まる一連の病態」というのが気に入ってます。
 アブラっぽいのと、メンポウができやすいのと、はたぶん大分、違うことなのでしょう。
・以前、ショウケツを極める話をいたしましたが、その筆頭がこのニキビ、でしょうか。
 費やした投資・労力・時間の成果に、納得できない患者さまも多かろうと存じます。
   ── しか~し!医者の立場で最初に言いますと。 ニキビそんなに 甘くないぜよ。
・わたくしも含めて、いちおう皮膚科医みんな、良心に従い努力はしておるのです。
   ひと言で申せば、相手が悪い。 ある種、鵺 ぬえ のような存在と感じております。
 今回も、謎に満ちた皮脂腺と関連疾患に、ゆる~くイイカゲンに迫って参ります。

・まず、ざ瘡のできるメカニズムを、適当におさらいしてみます。
  1.毛孔の閉塞・毛包の膨張 → 面皰 =白にきび 
  2.毛包の破綻・周囲の炎症 → 炎症性ざ瘡=赤にきび 
  3.細菌の増殖・毛包の蓄膿 → 膿疱性ざ瘡=おでき 
  4.皮下進展・偽嚢腫の形成 → 嚢腫性ざ瘡=しこり 
  5.瘢痕形成・真皮の線維化 → 集簇性ざ瘡=ケロイド 
 ── 「耳よりいいメール 56号」時代と、少しずらしてみました。ご参照下さい。
・皮脂腺と皮脂の分泌が病的な結果にいたる状態を 脂漏 しろう seborrhoea と言います。
   教科書を見ると、その代表が表題にあげた三疾患であるわけです。
・皮膚そのものと皮脂腺という付属器と、を巻き込む複雑さがソソリます。がもともと
 あまり系統的な概念でもなく、なんでも「ストレス」にされかねないのでご注意を。
   個人的には、大きな問題点は四つある、と考えております。
   ★マラセチア=済   ★物理的刺激=済   ★異物反応    ★自然軽快

面皰 ─ ざ瘡の初発疹
面皰 めんぽう とは、「垢と脂を貯め込んだ、出口のつまった脂腺性毛包」のことです。
 よく似た「稗粒腫 はいりゅうしゅ ミリウム」というのもありますが、厳密に言えば
   稗粒腫は表皮由来で「垢を主に貯め込んだ袋」を指します。(こまかい)
・毛と皮脂腺は「毛包脂腺系」というひとつのユニットをなしていますが、
 おでこやほっぺたといった、一見、毛のないところにも密に分布しています。
   毛は退縮して皮脂の供給が主な役目になるため、脂腺性毛包 と呼ばれます。
・皮脂腺は 毛孔 もうこう より下の毛包内に開口するため、毛穴 けあな が詰まれば
   毛包内に分泌物が溜まってしまい、袋のように膨らみます。これが面皰です。
・したがって、面皰ができる必要条件?として、毛孔が閉塞すること、が挙げられます。
・脂腺細胞は 全分泌 holocrine ホロクリン/クライン を起こすため、汗腺などと比べ、
   どうしても自爆した自身のカス、が混じるわけで、「垢と脂」がたまりやすい。
・したがって、面皰ができる十分条件?に、皮脂の分泌が亢進すること、が挙げられます。

面皰の治療 ─ アダパレン はアリ。アカスリ はナシ。? 
・つまりニキビの治療は、初発疹である面皰をいかに作らず消すか、が第一歩です。
・近年では、アダパレン(ディフェリンR)ゲルが使われるようになって、進歩しました。
 角質を薄く剥いで=ピーリング、毛孔の閉塞を改善するビタミンA系統の塗り薬です。
   世界の治療のスタンダードですが、なぜこれほど、わが国への導入が遅れたか。
・厚労省は一貫して、あまりニキビを病気とは認めたくないようです。
 そして、その考え方にも一理はあるのです。保険診療を支えるお金のことを考えれば。
   しかし、これだけ「見た目から入る」世の風潮(出てこない人も増殖中。)が
 肯定され一般化すると、「青春のシンボルだ!」と嘯いて済ますわけにもまいりません。
・にきびフリーで快適に過ごしたい、というのは今や基本的人権の一部、なのでしょう。
   が、この機会に、見た目から出てこない世間様などなど、考えてみるのも一興です。

・話が逸れましたので、強引にまとめてしまいます。
   ★毛孔の閉塞抑制 ← ビタミン(A)、イオウ、ケミカルピーリング、…
   ★皮脂の分泌抑制 ← ビタミン(B)、イオウ?、漢方薬、ホルモン、…
・角質をピーリングすればよいのなら、某国に行ってアカスリしてもらえば良いような?
 ── やめた方がよい、ように思います。肌荒れしたら、毛穴は余計に詰まりそうです。
   アレはむしろ、負荷かけて細胞の活力を呼び覚ます、みたいな?たぐいのもの。
・ビタミンCとかEとか、「抗酸化作用」を有するモノも良いと言われてます。がこれも
 どちらか言うと、肌荒れ予防ですよね? ちなみに「肌荒れ」≒皮膚炎の意味です。
   脂漏性皮膚炎を合併したざ瘡、のかたも結構おられ、酒さ性ざ瘡と見分けにくい。
・しかし、脂漏性皮膚炎はざ瘡の「原因」にはならない。院長が体張って実証してます。
   いずれにせよ。 信用しかけた読者よ欺かるるなかれ。 ニキビ甘くないぜよ。

丘疹/炎症性ざ瘡 ─ 垢と脂の 異物反応
・さて、以上の努力にもかかわらず、面皰ができ、かつ、消えませんでした。
・ちっぽけな~1mm 面皰ですが或る日突然、数mm に膨れあがります。 赤ニキビ=
 炎症性ざ瘡 の誕生です。発疹学上、紅色丘疹 こうしょくきゅうしん、と呼ばれます。
・いかにも感染症、という感じの皮疹なので、よく アクネ菌 Propionibacterium acnes
   がワルモノにされますが。 個人的にはあまり信じてません。 テキトーご勘弁。
・アクネ菌の分類は、ちょっと嬉しいグラム陽性桿菌(ほかガス壊疽菌、炭疽菌、…)で、
 皮膚にたくさん常在してます。(一説にはそれが答えだ!サルコイドーシス、とも。)
   なんかリパーゼで遊離脂肪酸、というとこまで、マラセチアと似てますね。
・ま、そんなこんなで面皰が壊れました。丘疹ができますが、これは細菌感染じゃないと。
 勝手に思っています。だって痛くないじゃん。(ウソかも知らん、甘くないぜよ。)
   ニキビの炎症は、あの炎症性粉瘤(院長イチオシの病気)と同じである。はずです。
・垢や脂は「自分」が作ったものでありながら、自分の体の「内側の世界」にとっては、
 排除すべき「異物」として認知されます。 ただバイキンやウイルスとは違って、
   血液全体でいきり立つ「抗原抗体反応」は起こらず。 ── そういうよくわからん
 コマッタチャン、を処理する過程として、肉芽腫性炎症、という反応が起こります。
・このタイプの炎症は発熱、疼痛といった緊急サインに乏しいのがひとつの特徴です。
   そして、困ったちゃん(異物)がなくならない限り、だらだらと続きがちです。

膿疱/膿疱性ざ瘡 ─ 異物反応 のち 細菌。
・おや肉芽腫性炎症がモタついてる間に、なんか化膿して、おでき みたくなりました。
 中央に白~黄色の「ウミ」をもつ、膿んだような発疹を 膿疱 のうほう と言います。
   「ウミ」の主成分は、白血球一家の絶対多数派=好中球(とそのカス)です。
・肉芽腫性の炎症は多様な細胞のコラボで成り立っており、「熟す」と好中球がたくさん
 出てくることがあります。そのきっかけのひとつとして、細菌感染は外せません。
   この時は黄色ブドウ球菌などのほうが、弱毒のアクネ菌よりも悪さしそうです。
印象だけでものを言って、真摯な研究者諸氏にはお詫び申し上げます。ウソかも知らん。
   個人的には、痛くないのはニキビ、痛いのはオデキ(せつ、的な)、と区別したり。
・以上、丘疹と膿疱を併せて、「ざ瘡の炎症性皮疹」と呼んでおります。これホント。

炎症性皮疹(丘疹・膿疱)の治療 ─ 抗炎症薬・抗菌薬など
・炎症性皮疹の治療も、けっこう難しいものです。まず毛包(真皮脂肪織境界付近)が
 炎症の主座となるため、オモテから薬を塗っても届きにくいし。 じゃ飲めばいい、
   とは言え、内服薬は皮膚にだけ行くわけじゃないし、毛包内までは届きにくそう。
・さらに。何を薬のターゲットにするのか。 炎症を抑えるのか、を抑えるのか。
 炎症反応では免疫細胞が主役を務めるため、抗炎症薬は免疫を抑制してしまうかも。
   逆に、菌を抑えたからといって、異物反応に始まった炎症がすぐ治るとも思えず。
・しかし、そこにニキビがあるから、には。治療せぬわけにはまいりません。
 おもに使われるのは抗菌薬で、古くから使われていたものに漢方薬、があります。
   ★抗菌薬: テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系、…
   ★漢方薬: 荊芥連翹湯、清上防風湯、十味敗毒湯、桂枝茯苓丸加ヨク苡仁、…
外用抗菌薬(ぬり薬):アクアチムRはキノロン系、ダラシンRはリンコマイシン系、
   グラム陽性菌、嫌気性菌を得意とするところはアクネ菌ビンゴ!な感じです。
内服抗菌薬(のみ薬):ミノマイシンR、ビブラマイシンRはテトラサイクリン系、
 ルリッドR、クラリスRはマクロライド系、クラビットR、オゼックスRはキノロン系、……
   抗菌薬、というよりは、抗炎症薬としての役割が期待されるものが有用です。
内服漢方薬(のみ薬):いろいろありますが、体質を見極めてっと。ワタクシさほど
   得意でもないので、たまにしか使いませんが。抗炎症作用や体質改善っすか。
 外用漢方薬(紫雲膏とか)は、違いますよね。
・しかし、同じ菌でもマラセチアは真菌です。 ある種の背中ニキビ(夏期ざ瘡)に効く、
 イトリゾールRという抗真菌内服薬(高価)があります。 また本来、抗寄生虫薬の
   メトロニダゾールも、ニキビの仲間の酒さに効く、とも言われています。
 誤解なきよう申しますと、このへんは普通のニキビの薬ではなく、原則使いません。
・つまり、私はワタクシの診断=評価と決断、に基づいて治療をする、ということです。

異物の排除 ─ 面皰圧出という処置と、医療経済の根深い関係
・院長のイチの師匠である K 先生(仙川の K 皮膚科クリニック=無断転載)は、
 面皰圧出の処置を推奨されています。院長もろ手を挙げて、やはり頭が上がりません。
   異物反応の一番の治療は、そのきょうせい(強制?矯正?)的排除に決まってます。
・塗ってそれを実現しよう、というのがディフェリンR(~イオウ)一族たちです。
   正直すぐには、そんなに効くわけでもありません。末永く見守ってください。
・それならと人為の出番なわけですが。 はっきり言って、技 ワザ が要ります。
   面皰にしても丘疹にしても意外に深いですからご注意を。膿疱はわりと浅いです。
・ワザを使って気を遣って、再診の方にこれをやると結局、金銭的にはソンします。
   (金銭的にソンしない炎症性粉瘤なら、喜んでやります。 と、ここで宣伝。)
・しかし、処置は「手当て」なのです。お金じゃありません。治療の基本ですが何か。
   面皰圧出を始めとする皮膚科的処置は、どうも、ソンするようにできてるようです。
・皮膚科処置への経済的評価は、不当に安すぎます。が、むげにそれを否とできないのも、
 先に述べたとおりです。 内視鏡オペなどの先進医療に次々と保険適応を認めるのが、
   是なのか非なのか。 何とも申せませんが。 病気っていったい、何なんですか?


さて、ためらっているウチに、炎症は皮下にまで及んでしまいました。

今回も毛包レベルで力つきたため、次回こそは完結編をお約束して、いったん終了します。


★一世風靡 いっせいふうび 
セボレア三部作が「正・続・新」であって「続々」でない点には、こだわりがあります。
一世を風靡した中岡俊哉「恐怖の心霊写真集」シリーズをごらん下さい。
院長まぎれもなき、活字デビュー作です。 (かなり冗談です。が、鑑定書あります。)

★今回の推薦図書&レコード 
クラインの壺 岡嶋二人   ・読者よ欺かるるなかれ カーター・ディクスン 
それが答えだ! ウルフルズ   ・或る日突然 トワエモワ (≒貴方と私) 

★今回の漢字の勉強 
: 音=ハイ、訓=ひえ。 意味=こまごまとした・穀物のヒエ。 例=稗官・稗史
   慣例として稗粒腫を「ひりゅうしゅ」と読んでも、べつに構いません。
: 音=ホウ、訓=にきび。 意味=ニキビ・できもの。
: 音=ショウ、訓=うそぶ・く。 意味=口をすぼめて発声。 例=吟嘯・海嘯
: 音=キョウ、訓=た・める。 意味=形を整える。 例=奇矯(奇は否定詞?)


本稿と関連の深い 日記 を列挙させていただきます。お時間の許す限りご参照下さい。
・ 皮膚の付属器の疾患 ─ 脱毛、にきび(ざ瘡)、巻き爪(陥入爪)、などなど
・ 中毒疹 ─ アレルギー“的”な皮膚のお祭り騒ぎ: 薬疹、ウイルス、しいたけ、…
・ 脂漏性皮膚炎(フケ症)、酒さ(赤ら顔)、ざ瘡(ニキビ)、… ─ セボレア 脂性 の理論皮膚科学
・ しゅさ(赤ら顔)、ざ瘡(ニキビ)、脂漏性皮膚炎(フケ症)、… ─ セボレア 脂性 の理論皮膚科学・続


140530更新: 本稿と関連の深い 日記 を追加しております。どうぞご参照下さい。
・ ざ瘡(にきび)─ セボレア 脂性 の理論皮膚科学・完 :そして、慢性膿皮症と粉瘤(ふんりゅう)

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