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済・高円寺駅前皮膚科 の日記

紅皮症 ─ あるいは皮膚という大きな臓器の機能と危機

2014.08.28

紅皮症とは ─ 人体最大の臓器、を実感するとき 
・皮膚は人体最大の臓器、とよく言われます。重さ?面積?いろいろ説はありそうですが。
 単に表面積だけなら、Villi 絨毛 まで含めた小腸さん、あたりには負けそうです。
   もっとざっくり、皮下脂肪≒お肉 まで含め 見ため の多さ、ならまず間違いない。
・実は皮膚は全身でもっとも「知覚」が鋭敏なところです。 知覚の要素を
 「五感」と申しますが、何を指すかご存知ですか? 視・聴・嗅・味・触覚です一応。
   前4者は、それに特化した感覚器官「めみみはなくち」5963! GO!GO!7188。 
   が独占しますが、触覚 は痛覚・冷温覚・触圧覚…と細分類され、なんか曖昧です。
・何の知覚にせよ、単なる神経細胞のコーフン、ですが。 皮膚は全身にあるので、
 感覚器の数はダントツ、ですよね。(ホラずきの方に推薦図書=貴志祐介「黒い家」)
   温痛覚はむき出しの神経終末に、触圧覚は若干特化した神経終末によります。

・そんな皮膚でも、他の臓器と同様、ふだんは意識の片隅にものぼらないわけであり。
 でも皮膚病になれば、かゆみ=微妙な神経終末の被刺激、を生じることが多いので、
   存在感が出てきます。 しかし「臓器」というほどでも…ある、場合がある!
紅皮症 といいます。人体表面積の9割以上が真っ赤になった状態を指します。が。
 単に赤いだけでなく。ぞわぞわ≒悪寒発熱したり、朦朧と≒脱水・意識混濁したり。
   ─ つまり、皮膚という臓器が本来もつ機能が、危機に瀕した病態、と言えます。

・皮膚という 臓器機能 は大きく3つに分けられます。
   1.外界からの防御 = 物理・化学的な侵襲や病原体などを、遮断・緩和・排除。
   2.内界の環境維持 = 水分や電解質、蛋白質などの保持。体温や血圧の調節。
   3.境界情報の察知 = 最前線として感覚器→神経系、抗原提示→免疫系を発動。
・水分保持や体温調節が狂えば、高熱も出ましょうし、脱水や低蛋白血症をきたして
 腎臓など他の重要臓器にまで障害が及び。 容易に感染症をきたすようにもなります。
   ─ スベスベでモチモチぷるん が望ましいのは、なにも見た目だけじゃないのです。


落屑がつよい紅皮症 ─ 院長は診た・その1 
・勤務医時代にずいぶんいろんな経験はしましたが。 紅皮症のかたは少なかったです。
 でも診療に携わった(家政婦のように柱の陰から横目で「見た」わけでない)だけでも、
   実に多様な 原因疾患 がありました。 思いつくまま列挙してみます。

  ★アトピー性紅皮症 ← アトピー性皮膚炎 
・紅皮症中の圧倒的多数派、と感じます。原疾患を反映して痒みが強いのが特徴です。
・多くは「忍耐強いマジメなイイ人」ですが、「諦めちゃったズボラなひと」も?
   怪しい療法をマジメに信じて実践してしまった方も多く、胸が痛みます。
  ★湿疹続発性紅皮症 ← 皮脂欠乏性湿疹など 
・掻き壊しからスイッチオンして、発症します。高齢者に多く、全身症状を伴いやすい。
・痒疹のところでも申しましたが、高齢になると見た目気にしない、だけでなく。
   清潔志向がつよく、せっせとアカ=落屑をこすり落としていた方もおられました。
・脱水でヘロヘロ/モーローとなっておられるせいか、痒みの訴えは少なかったかも。

  ★乾癬性紅皮症 ← 尋常性乾癬・関節症性乾癬・膿疱性乾癬 
・基本的に乾癬皮疹が先行し、病勢があまりに強くなるとスイッチオンします。
・紅皮症化のきっかけはいろいろですが、感染症や薬が要注意です。内服ステロイドを
   急にやめるのも危ない。個人的には忘れじのリーマス=乾癬を助長する躁病の薬。
  ★落葉状天疱瘡の紅皮症化: はっきり水疱ができないぶん、発見が遅れがち?

・以上のタイプは、表皮が悲鳴をあげながらせっせと新しいケラチノサイト→角質→鱗屑、
   を供給し続けるため、掃除をすると山盛りの落屑が得られたりもします。
 剥脱性皮膚炎、とも申しますが。表皮剥脱=びらん、には至りません。角層剥離です。
・ほか魚鱗癬症候群など、生下時/小児期から発症するたいへんな疾患もあります。


感染症に伴う紅皮症 ─ 院長はミタ・その2 
・カンセン性紅皮症、とは言えないのは、前述のごとくです。

  ★猩紅熱 しょうこうねつ ← 溶血性連鎖球菌 ヨーレンキン (の一部) 
・けっこうブツブツしてます。溶連菌は皮膚科細菌業界のトップスターで毒々です。
   鼠径部、腋窩など間擦部位に始まり、急速に全身赤っぽくなります。
  ★ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 SSSS ← 黄色ブドウ球菌 (の一部) 
・顔に特徴あり、体は初期は赤いだけです。黄ブ菌もまた業界トップにて猛々しい。
   鼠径部、腋窩などの発赤で始まり、乳幼児の病気のはずが、高齢者にも起こります。
  ★汎発性伝染性膿痂疹 ← 黄ブ菌 MRSA とか>溶連菌 (のごく一部) 
・表皮剥脱毒素>発赤毒素? さらには TSS>TSLS? 前者は落天 (not 楽天)-like。
  ★麻疹・風疹・伝染性単核症… ← なんかのウイルス (のごくごく一部) 
・このへんになってくると、播種状紅斑丘疹型(後述)に生じる疾患のため、
   フェードアウトする個疹のどこまでを「赤い」というのか、アタマ痛いです。
  ★白癬 ← ≒皮膚糸状菌: いまどき紅皮症になったら、訴訟ものです。
  ★疥癬 ← 皮癬壁蝨 ヒゼンダニ (のごくごく一部) 
・前回ふれた疥癬に続発する紅皮症は、湿疹続発性と似た症状を呈するように感じます。

・以上の疾患群は、「紅皮症」の 枠組み 内で語られることは、ほとんどないよな。
   そこに至る頻度も低く。── だから院長も診たわけでなく、ミタ程度です。
毒素 で起こるんだと思います。細菌 由来のものは詳しく同定されているようです。
溶連菌黄ブ菌 は、島と北の(どっちがドッチ?)みたいなもんで。
 錦とノ花、でも戸と大、でもない。だから「体内の毒素を出しましょう!」
   でとっくす、とは申しません。 ── 当院のポリシーです。


落屑に乏しい紅皮症 ─ 院長は診た・その3 
・剥脱性皮膚炎を紅皮症の同義語のように扱うのは誤りであって、定義上は赤い面積です。
 あとで述べるように、紅皮症のスイッチはまず真皮レベルで入るように感じています。
   表皮の傷害が(特に早期には)意外に目立たない紅皮症もたくさんあります。

  ★薬剤性紅皮症=紅皮症型薬疹 ← ドラッグ not Herb 
・最もよくあるタイプの薬疹は、比較的細かい紅色皮疹(丘疹・小紅斑)が散布性に生じ、
 のち個疹が拡大・融合して真っ赤になる、という経過です。(播種状紅斑丘疹型薬疹
   融合した紅斑が「結果として」面積9割を超える、ということはありえるわけで。
・しかし、そういうのは紅皮症の本質からちょっと外れる、のではないかと。
 全身皮膚が まんべんなく(びまん性)潮紅をきたすところから始まる、のが本物。
   中毒性表皮融解壊死症 TEN という、恐ろしい病型の最初期像でもありえます。
TEN は本稿の趣旨とずれるため、詳しくは述べません。剥脱性皮膚炎と似て非なる
   水疱・びらんをきたします。本態は表皮の「壊死」。悲鳴すらあげられません。
・表皮があまり傷害されない紅皮症型薬疹は、アセトアミノフェンで経験しました。
   ですが、同じ薬で固定薬疹も、スティーブンス・ジョンソン症候群もありましたし。
・個々の薬と薬疹の発疹型、というのは相関がなさそでありそで、超ムズカしい。ひとつ、
   とにかく薬疹が疑われたら、断固として 薬をやめる。これがまた難しいのですが。
・たしか、原因降圧剤を何か月も飲み続けた高齢者、に生じた紅皮症もありました。
   湿疹型?の薬疹から進展したか全身ガサガサで、薬をやめたらスッパリ治りました。
 (だから、薬剤性紅皮症は落屑が少ない、という覚えかただけはなさらないように。)

  ★腫瘍性紅皮症 ← 皮膚リンパ腫を始めとする腫瘍性疾患 
・こちらに関しては、いろいろ痛い目にも遭いました。 腫瘍はときに人命を左右する、
   重要な疾患群です。このおちゃらけた連載日記で扱うにふさわしくはないのですが。
・自戒をこめてまず第一には。 ── 皮膚そのものから生じ、かつ腫瘍に見えない疾患。
 皮膚のリンパ腫 です。 冒頭に述べたとおり免疫系の最前線である皮膚には、
   様々な役割を担った免疫担当細胞、中でもリンパ球がたくさん常駐しています。
・そんな中で、調子の狂ったリンパ球が 見境なく 増えてしまうことがあります。
 質 たち のよいもの悪いもの、反応性やら腫瘍性やら、いろいろな増え方がある中で。
   なかには全身皮膚で一斉にスイッチオンして、紅皮症になるものもあります。
・基本、真皮内で増えるため、落屑はたいしたことないはずですが。リンパ球のうちでも
 T細胞 が増殖すると、表皮向性 Epidermotropism のため、表皮が傷んでガサつきます。
   (だから、腫瘍性紅皮症は落屑が少ない、とは思われませんように。)
・院長がミてない腫瘍性紅皮症に、いわゆる「がん」とか「にくしゅ」に伴う紅皮症、
   があります。どういうスイッチでしょうか。かなり珍しい事例ではあるはずです。

  ★毛孔性紅色粃糠疹 PRP の紅皮症化 
・PRP → 紅皮症、というのは、医師国家試験 コクシ にも出るくらい有名らしい。
 炎症性角化症=表皮の病気?、の一種ですから。 てっきり落屑がつよいタイプかと。
   私が(柱の陰から)見たときは違ってました。 なぜ?おせーて N妻センセ。
  ★慢性光線性皮膚炎 CAD の紅皮症化 
・紫外線までをもテキとして、キレてキレ続けてしまう、リンパ球たちの根深い執念。
  ★丘疹-紅皮症 ← 多形慢性痒疹? 
・そろそろ紙幅も尽きてマイってしまいましたので、またの機会に。 ── キー所見、
   しわを避ける皮疹の分布 Deck-Chair Sign は、多形慢性痒疹に特異的です。


紅皮症の原因と治療 
・紅皮症の「原因」と原因「疾患」は、だいぶん違うのではないかと思います。
 疾患のごく(ごくごく…)一部だけが紅皮症になるのは、なぜでしょう? 
   “毒素”を始めとする“なんか”に、生体が反応している、のはまず間違いない。
・反応するかしないのかは、生体しだいで 閾値 いきち threshold がありそうです。
   安易に“置換”すれば、「生体」→「免疫系」とも言えそうです。
・免疫担当細胞はおもに 真皮 にいるので、血管拡張スイッチ、が入って赤くなるとも。
   しかし紅皮症になる“疾患”とならない“疾患”と。 なに(か)が違う。

・治療ならとりあえず、スイッチを“切る”必要があります。 ある種の薬剤で、
 免疫系ぜんぶボコるのが有効でステ。 しかし普通の中毒疹と違い慢性疾患も多い。
   いったん入ったスイッチは容易に切れず、長いお付き合いとなるかもしれない。
・皮膚はひとたび機能(バリア)を失えば、経皮吸収が亢進します。
   塗り薬ひとつとっても効き過ぎたり、逆に飲み薬がわりにまでなるかもしれない。
・作用と反作用と副作用と、そこは極力、理論的に考えてまいりましょう。
 免疫系の研究は現在、瞠目すべき進歩?(or 肥大・拡張・拡散)を遂げつつあり。
   分子標的薬 とかヒトゴト目線。 理論と実践には日々、アップデートが必要です。


結語 
・皮膚は免疫系の最前線です。たぶん認知はできず察知するだけ。でもそんな、
   ちょっと抜けたとこまで愛おしい、というのが皮膚科医稼業です。
・事件は現場で起きている。ミタ医者でなく診た医者の皆さま、精進して参りましょう。


本稿と関連の深い 日記 もあります。お時間がございましたらご参照下さい。
・ 湿疹・皮膚炎 ─ 理論皮膚科学の第2か3章  
・ 中毒疹 ─ アレルギー“的”な皮膚のお祭り騒ぎ: 薬疹、ウイルス、しいたけ、…
・ 痒疹 ─ 慢性蕁麻疹 でなく 慢性湿疹 でもなく。(かつ、いずれでもアリ。)
・ 自家感作性皮膚炎と紅皮症 ─ 白癬 みずむし や 疥癬 ひぜん たちのスイッチオン

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