済・高円寺駅前皮膚科 の日記
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湿疹・皮膚炎 ─ 理論皮膚科学の第2か3章
2014.02.09
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●湿疹・湿しん・しっしん・シッシン = 馴染みのあるような、ないような。
・シッシンという言葉を使ったことがないオトナは、あまりおられないのではないかと。
・「なんとなく痒くて、見た目にも皮膚の状態がおかしくて、というようなのが湿疹です」。
──実は、こうした“日常用語”としてのシッシンの定義は、そうとうに曖昧です。
痒くて皮膚になんか出てれば、シッシンです。だから蕁麻疹もシッシンです、とも言えます。
・しかし、それは明白な誤りであって、皮膚科学的に正しく言わせていただきますと。
「表皮内を主座とするかゆみを伴う炎症」=これが湿疹および皮膚炎(のちほど)の定義です。
・表皮が炎症を起こすと、ブツブツ(微視的な小水疱)ができて、触るとザラザラ(角質層の剥離)します。
・前回の「蕁麻疹」が第4か5章だとすれば、「湿疹」のほうが第2か3章、くらい、
皮膚を表面から見ていくとすれば、一番先に出てきてよい、偉い病気なのです。
●湿疹の診断と治療
・というわけで、たいていの皮膚科の教科書には最初のほうに出てきます。
・診断はかんたんで、赤くて(炎症) ブツブツ(小水疱・丘疹) ザラザラ(角層剥離・鱗屑)してます。
・治療もかんたんで、表皮ですから塗り薬です。炎症ですからステロイド(抗炎症ホルモン)です。
──?????
●湿疹の原因とは?
・湿疹の原因は多種多様です。というのも、「表皮こそが外界との最初の接点」だからです。
◆ちなみに賢しらに申しますと、外界との最初の接点にはいろいろございます。
メ(眼瞼・角膜上皮)、ミミ(外耳道・鼓膜)、ハナ(鼻孔・鼻粘膜)、
クチ(口唇・舌・歯)、ご苦労さん、ついでに喉頭・咽頭も。
こうした器官に、意外に“がん”が少ないのは、実は驚くべきこととも言えます。
・たとえば、湿った手を放置していると、角質層がふやけてバリア機能が低下します。
そこでちょっとした痒みを掻きこわせば、バリアが壊れて炎症はさらに増強するので、
悪循環(今どきは負のスパイラルとも言う)です。こうして「手湿疹」になります。
●皮膚炎とは?
・湿疹がどんな原因で、どうして悪くなるのか、
いちいち挙げればきりがないし、説明が面倒なので、おおざっぱにまとめちゃいます。
「原因を限定できないものは湿疹、特定の原因を挙げられる場合は敢えて皮膚炎と呼ぶ。」
アトピー性─(←体質、ホコリ)、接触─(←IV型アレルギー)、脂漏性─(←皮脂)、…。
・接触皮膚炎は俗に言う“かぶれ”で、特定の物質(アレルゲン)に対する遅延型反応で発症し、
うるし皮膚炎・ニッケル皮膚炎・毛染め皮膚炎など、アレルゲンを冠して名づけます。
・ただし、アレルギーによらない接触皮膚炎もあり、「一次刺激性」と呼んで区別します。
とろろ皮膚炎・洗剤皮膚炎など。生ニンニクや灯油の皮膚炎、なんてのもあります。
・つまり、湿疹と皮膚炎の境界はもともとあいまいなもので、同じ病気とも言えるのです。
両者は病理組織学的には区別がつかない、同じ病像を呈します。
・急性期: 表皮内の浮腫から微小水疱を形成し、リンパ球などの炎症細胞が浸潤する。
・慢性期: 表皮の肥厚と不全角化、真皮の血管拡張と炎症細胞浸潤。苔癬化に至る。
平たく言えば、必ずかゆみを伴って、ブツブツ・ザラザラ→ゴワゴワ、という感じです。
※ 「皮膚炎」と名のつく病気には、しいたけ皮膚炎、水銀皮膚炎、自家感作性皮膚炎など、
むしろ「皮膚を舞台とした全身的なお祭り騒ぎ」である、中毒疹に分類すべきもの
も含まれます。中毒疹については、いずれまた触れたいと思います。
●湿疹が治らない
・まとめれば、湿疹は単一の原因を特定しきれないからこそ、皮膚炎ではなくて湿疹なのです。
治らないのも当然、なのかもしれません。
・逆に、ステロイドを塗りさえすれば治る病気が、治らないのはおかしいとも言えます。
●当院の取り組み
・以上より視診・触診に加え、問診を重視します。十分な時間が割けないこともありますが。
・慢性の場合、入浴を含むスキンケアと、ステロイド中心に塗り薬の習慣づけを推奨します。
ちなみに慢性に湿疹を繰り返す疾患の代表が、アトピー性皮膚炎です。
・手癖をはじめとする増悪要因には心理面のアプローチも有効ですが、鬱陶しければやめます。
・例によって多少の秘密兵器も備えてございます。
湿疹が治らなくてお困りのかた、お待ちしてます。
140424更新: 本稿と関連の深い 日記 を追加しております。どうぞご参照下さい。
・ 「治らない」じんましん ─原因の“ない”かゆみ─
・ 中毒疹 ─ アレルギー“的”な皮膚のお祭り騒ぎ: 薬疹、ウイルス、しいたけ、…
140303追加: アトピー性皮膚炎については、
相模原にいた5年前の記事があるのを思い出したので、どうぞご参照下さい。
国立病院機構 相模原病院 「耳よりいいメール 46号」
↓ アーカイブされてなかった&画像しかアップできない、ため参考までに。
「アトピー性皮膚炎の最新の治療」 2009年3月1日号
2008年10月16日、免疫抑制剤「ネオーラル」の効能が追加され、「アトピー性皮膚炎(既存治療で十分な効果が得られない患者)」が適応として承認されました。治験でもびっくりするほど効いた患者さんを経験していますので、治療の選択肢の幅が広がる点、大いに期待しています。
しかし、大切なのは上記の( )内です。まず、対象は「強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上」であることが必須で、投与期間にも「できる限り短期間にとどめ、12週間以内を目安」と縛りがあります。そして何より、どうやってもよくならない、特殊な方にしか使えないということです。つまり、普通に外来に通っている患者さんには無縁な(であるはずの、であってほしい)くすりです。さらに、あくまでも対症療法であって、「根本的な原因をなくして、病気を完治させるような治療」ではないことにも理解が必要です。
そもそも、上記の「既存治療」とは何でしょうか。この問いに答えてくれるインターネット上のホームページ(HP)をご紹介したいと思います。
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン
これは日本皮膚科学会が公式に公表している治療ガイドラインであり、大多数の皮膚科医が納得して従っている治療方針だ、と考えて頂いてよろしいはずです。かなりがんばってアップデートされており、最新版は昨年の3月に出ています。(このためネオーラルについては触れられていません。)
このHPにもあるとおり、アトピー性皮膚炎は、乾燥してバリア機能が弱く、刺激に敏感な「皮膚の体質」をベースにして、どこにでもあるホコリやダニなど(アレルゲン)に対するアレルギーから、痒みと湿疹を生じる病気です。気温や汗、髪の毛や衣服、引っ掻く行動そのものなど、湿疹の炎症を慢性化させる刺激も身のまわりにあふれています。つまり、「何も悪いことをしていないはずなのに、体のあちこちが痒くなって、いつまでも治らない」という、そんな病気です。理不尽だと感じる患者さんの気持ちもよくわかります。
しかし、だからこそ、割り切ってうまく付き合うことが大切です。完治を目指すのでなく、入浴して保湿剤や軟膏を塗るというスキンケアを、習慣として生活リズムのなかに取り入れます。悪くなったときはためらわず適切な強さのステロイドなどを塗るようにします。頂いたお題に反した言い方ですが、「最新」を求めずおおらかに構えておくべきだと思います。先のHPでも、「特殊な治療法については、科学的に有効性が証明されていないものが多く、むしろ、その健康被害の面に留意すべきである」と明言されています。
150213追加:
「診療ガイドライン」のリンクが変更されました。 いま気付きましたため、
リンクを貼り直しておきました。