済・高円寺駅前皮膚科 の日記
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痒疹 ─ 慢性蕁麻疹 でなく 慢性湿疹 でもなく。(かつ、いずれでもアリ。)
2014.06.22
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●痒疹に託す思い ─ 治らない疾患って本当ですか
・いつからか、痒疹 ようしん という疾患が、最も?好きな病気となっておりました。
理由は単純で、どの本を読んでも よくわからなかった からです。
なにげに考え甲斐があるというか。青年は荒野をめざす。(一部失礼+偽装)
・開業前にいちおう、自分なりの落とし前はつけてみましたが。 まだまだ
議論の余地アリと思いますので、お好きな皆さま/患者様、お声がけ下さい。
・亜急性/慢性痒疹のとらえ方
原因: あらゆる“難治性”皮膚掻痒症
もともと外用薬が効きにくい、内因性のかゆみ。 少なからず、難治性
(≒抗ヒ薬抵抗性)の慢性蕁麻疹と類似する、かゆみのメカニズムが背景にある。
経過: 掻破行動による悪循環
掻きこわしにより、痒疹丘疹・結節を形成。
内服薬のみでは鎮静化は難しく、外用薬が必須。
結果: 原発疹により、 臨床像の違いが現われる
(1) 結節性痒疹 = 核となる皮疹がある場合 :虫刺症/毛包炎/貨幣状湿疹/…
(2) 多形慢性痒疹 = 核となる皮疹がない場合
(3) 丘疹-紅皮症 = 掻きこわしがイキすぎた場合
(某文献からのコピペです。ショボ×ッ×すか。 多少の切り貼りあり=ナシ。)
・やはり医者をしている限り、特定の何かに入れ込むことは続けて参りたいものです。
そしてときに、その思入対象が移り変わっていく、というのが自然で心地よいです。
・痒疹は非常に治りにくく、かつ治しにくい。この点はもう間違いございません。
アトピー性皮膚炎という疾患は、時とともに自然に寛解することも多いのですが、
このタイプの皮疹を生じてくると、なかなか長いお付き合いとなってきます。
・しかし、痒疹ってほんとに、そもそも「疾患」なんですか?
たぶん、そうではない、という立場もアリだなと感じつつ。
●痒疹とは ─ 症状 or 疾患 ? :その定義
・痒疹最多の原因は、おそらく先に挙げた アトピー性皮膚炎、だと思います。
あと有名なのは虫刺され(ブヨ/アブ系)。⊇ ストロフルス =懐かしの病名。
・しかし原因がわかっているなら、独立「疾患」ではなく、各疾患の 症状 です。
症状としての痒疹は「タマラン痒みがつづく、(ブツブツよりも)大きめのボコボコ」
≒ 激痒を伴う結節性の丘疹、とでも?( U野流には、丘疹≦1cm≦結節)
・記載法は敬愛する N山イズム≒丘疹は炎症系、結節は腫瘍系、に従ったつもりで。
すると、個疹が細かく「ぼこぼこ」とは言いがたい、色素性痒疹は外れてきますか。
・では少し肩の力を抜けば、「湿疹とは言いたくない、やたらと痒い皮疹」とでも。
しかし、蕁麻疹 じんましん だって時にやたら痒くてボコボコもします。要除外。
そこで「つづく」と入れてみました。原則24時間以内の出没、を除く。
●痒疹の診断 ─ 疾患単位としての痒疹に、急性はナシ、と思うわけ
・虫刺症でもアトピーでも、痒疹になります。 しかし、やはりそういうのは、
「こじれた虫刺性皮膚炎」とか、「いわば痒疹型アトピー性皮膚炎」と診断したい。
・つまり 疾患 としての痒疹の定義に、やはり N島先生は外せません。じゃなくて。
「ワケもわからずタマラン痒みが続く、ブツブツや大きめのボコボコができる病気」
≒ 理不尽な掻痒を伴う、しばしば結節状を呈する丘疹が持続/反復する疾患。
・これならば、妊娠性痒疹≒妊娠中毒症の皮膚発現(経産婦に多い)、と、PUPPP=
多形妊娠疹≒ビックリしちゃった母体のカユカユ(初産婦に多い)もアリ。
ほかの意味でビックリしちゃった若年女性の、色素性痒疹 もオールオッケー。
・ちなみに、痒みがタマランのは「わけもわからず続く」場合に限るので、このさい
虫刺され は N秋先生をお買いあげ下さい。 とりあえず、虫刺されで始まりがちな
結節性痒疹 だけコチラに下さい。 急性痒疹は、この際、おいときましょう。
・そいえば、東京でもそろそろ 南京虫 トコジラミ が蔓延るかもしれませぬ。
・疾患としての痒疹には、原因不明?な「多形慢性痒疹」こそが、その基本型として
愛おしい、のであります。ちゃんとした皮膚科医のみに、その診療は可能であると。
●痒疹の原因 ─ オールオッケー (All O.K. 英語?)
・というわけで、わけもわからず痒い病気なら、なんでも痒疹になり得ます。
重大な方から言うと、ある種の腫瘍性疾患、肝硬変→黄疸、腎不全→尿毒症、…
腫瘍の中では、リンパ腫(ホジキン病とか、皮膚T細胞性とか)が要注意です。
・糖尿病などの慢性疾患もアリガチなので、きちんと内科に通ってください。
・アトピー性皮膚炎も蕁麻疹も類天疱瘡も、わけもわからず痒いですよね。
・虫刺症が「痒疹」になるのは、あのムシ(ブユ?)はとっくに解毒したはずなのに。
あの夏の河原のバーベキューは、もう3年も前なのに。…という場合に限りたい。
・先に述べたように、ご懐妊、とか過激なダイエット、なんてのもあるようです。
・つまり痒疹の Onset は、ダイスケ的にもオールオッケー なのであり。 真の 原因は
「引っ掻く行動そのもの」とも思われ、これを 掻破行動による悪循環 と呼んでいます。
アトピーでも蕁麻疹でも蚊に刺されても、掻かずに済めば、よいのですが。
・掻かずに済んだ場合、皮膚科医泣かせに「皮疹がない」こともあります。
わけもわからず皮膚が痒い“だけの”病気を「皮膚掻痒症」と申します。
・したがって、蕁麻疹・痒疹・皮膚掻痒症は一つのグループをなすのです。
・しかしそもそも、「掻破行動による悪循環」は、湿疹 の重要な成因であったはず。
── なにが違うんですか?
●痒疹の病理 ─ 真皮上層の稠密な?炎症細胞浸潤 (皮膚科医向け)
・10年前に北の国から、ある重要な知見がもたらされました。 札幌方面の
皮膚病理エキスパート M澤/K村 は、多形慢性痒疹≒ザ・痒疹 の病理組織学的特徴を、
虫刺症型反応=真皮のtop-heavyな血管周囲性リンパ球浸潤、と看破されたのです。
・つまり「ボコボコ」の正体は、真皮上層への炎症細胞の集結や浮腫 むくみである。
痒疹の個疹(症状としての)は、多少なりともこの病理像を共有しておるはずです。
真皮 の疾患であるがゆえに、湿疹ではなくむしろ蕁麻疹に近い、とも言えます。
・痒疹丘疹の見た目は、真皮の炎症と表皮の変性、の程度により様々な多様性を有します。
・ザ・痒疹≒多形慢性痒疹では、あちこち 痒くなって掻破のターゲットが一定せず、
あまり表皮のダメージが起こりません。鱗屑=角層のなれの果て、も少なくて。
・一方、虫刺されなど「核」のある結節性痒疹は、反復する掻破(一点加重攻撃)により、
表皮の肥厚と過角化を伴うため、苔癬化した慢性湿疹の表皮の像と似てきます。
・痒疹丘疹まとめますと。内なる痒みに導かれ、ワケもわからず生まれてみたが、
外なる掻破に育てられ、シコリのように成長し、立派なボコボコになったとさ。
●痒疹の治療 ─ 内と外、いずれもアリ。
・多形慢性痒疹は、性差と年齢差の顕著な疾患です。ひとこと(偏見)で言えば、
「オヤジ の病気」 ── 中高年の男性は、見た目気にせずボリボリしまくる。
・しかし実は、虫刺症由来の結節性痒疹は若年女性に多い病気です。おやじギャル?
その成因には、スカート(とか露出)が関与するはずですが。よくは存じません。
・だいぶん失礼も申しましたが、まずは今一度、自身の掻破行動と向きあって下さい。
「気合い」が通用する病気に、はじめて巡り逢えた、のかもしれないのです。
・「これはただ、かさぶたを取ってるだけです」と言ってしまった瞬間、負けです。
とにかく、そっとしておく。そこにソレがある、ことを忘れる。ムシする、……。
・しかし、さすがに寝ている間/無意識までは、無理です。気合いも通じません。
だから痒みそのものを減らし、なくすべく人為的介入が必要です。 ─ 総論的には、
わき出る痒みに内から飲み薬、傷んだ皮膚のリセットに外から塗り薬を使います。
・タマランかゆみ、であるがゆえに内服薬も外用薬も強くなりがちです。
その効果と副作用、を天秤にかけて調整し、また患者さま側の自助努力を促し、
その治療は困難の連続とも感じられ、それ故にやり甲斐がある、というものです。
●当院の取り組み
・内服薬: 抗ヒスタミン薬、免疫抑制薬(ネオーラルRやプレドニンR)、院長得意の
レセルピン=アポプロンR などを用います。用量を注意深く調整して参ります。
・外用薬: デルモベートR、ケナコルトR注、ドレニゾンRテープといった過激な薬から、
保湿剤や亜鉛華軟膏のような穏和な薬まで、皮疹との相談で調整して参ります。
・紫外線療法 ナローバンドUVB など特殊な治療は行ってませんが、ご紹介が可能です。
・糖尿病などの改善しうる背景疾患に留意し、他院との連携も図って参ります。
・個々の掻かずにいられぬ事情、を常に慮 おもんばか り、適切な助言を心がけます。
痒疹、に限らず、かゆくてカユくて治らなくてお困りの方、ご来院お待ちしております。
★今回の推薦レコード
・結婚するって本当ですか ダ・カーポ / ケンとメリー~愛と風のように~ BUZZ
・帰ってきたヨッパライ ザ・フォーク・クルセダーズ → 悲しくてやりきれない。
・HOT LIMIT TM Revolution → 浅倉大介。西川貴教。Darker than Black。
・つゆのあとさき さだまさし → 実は長崎から。生ただならぬ気合い。断腸亭日乗。
★今回の漢語の勉強
・稠密 ちゅうみつ(ナ) 意味=みつしりとつまった 例=稠密六方格子構造
ちょうみつ、と読むのは誤りだそうです。チョー・密。壇・蜜。せん・みつ。
・蔓延 はびこ(ル) 意味=猖獗を極める 例=ニキビ巻き爪、シミしわタルミ、…
本稿と関連の深い 日記 もあります。お時間がございましたらご参照下さい。
・ 「治らない」じんましん ─原因の“ない”かゆみ─
・ 湿疹・皮膚炎 ─ 理論皮膚科学の第2か3章
・ 中毒疹 ─ アレルギー“的”な皮膚のお祭り騒ぎ: 薬疹、ウイルス、しいたけ、…