済・高円寺駅前皮膚科 の日記
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しもやけ ─ 循環不全による皮膚疾患への序章
2014.02.14
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うかうかしていたら、そろそろ冬も終わりです。冬は血のめぐりが悪くなります。
●しもやけ=凍瘡 とうそう
・相模原(神奈川の多少内陸都市)から高円寺(東京山手線のちょっと外側)に移ってきたら、
凍瘡の患者さんの割合が、けっこう少ないのに驚きました。東京は暖かいのですね。
・しもやけ、懐かしい響きです。冷暖房完備の現代っ子がしもやけになっているのを見ると、
ちょっとほっとします。──ヒトの不幸を喜ぶやつ。
・しもやけは、なぜ赤く腫れて痒いのか。
想定外の寒さにビックリした末梢の血管たちは収縮し、血流が滞って赤く腫れます。
まわりの細胞たちもビックリして、痒み物質をチビリます。
・注目すべきは、凍瘡の血流障害は「攣縮 れんしゅく」による可逆的なものだということです。
古くから「しもやけになったら湯と水に交互につけて、マッサージすれば治る」と言います。
ビックリしちゃった血管を、なだめてあげる感じに。
・血管の収縮・拡張は自律神経支配↓なので、意識してどうなるものでもありません。
当麻紗綾のように「血管ひらけ~」とリキんで念じても無駄です。たぶん。
だから、気化熱の損失を防ぐため、湿った手袋や靴下を放置しないようにしましょう。
・しもやけがコドモに多い理由は、実は詳しくは存じませんが。
まあオトナのほうが神経が図太い(ニブイとも言う)、ということなのでしょう。
●毛細血管・動脈・静脈、そしてリンパ管
・心臓から出た血液は、拍動をもって動脈の中を移動し、細い血管に分配されていきます。
末梢の毛細血管で酸素と栄養を組織に与えた血液は、二酸化炭素と老廃物を受け取ります。
毛細血管が徐々に合流して静脈となり、拍動を失った血液は、最後は心臓に帰っていきます。
循環中に酸素は肺、栄養は消化管と肝臓、老廃物は腎臓を主体に適切に処理されます。
・凍瘡におけるうっ血の場は毛細血管ですが、血管の攣縮はその前後の動静脈で起こります。
というのも、攣縮を起こしうる平滑筋細胞は、毛細血管には存在しないからです。
入口・出口がキュッと締まってしまえば、血液には行き場がなく赤く腫れるわけです。
・そしてもう一つ、攣縮を起こし得ない循環系が存在します。リンパ管です。
赤血球を含まない、栄養や老廃物や免疫担当細胞を含んだ「リンパ液」が流れてます。
・手術をしていると、皮膚のリンパ管はまず、「くだ」とはわからないくらいです。
しかし、全身の循環を考える上で、決して無視はできないものです。
悪性腫瘍の転移も、このよくわからない「くだ」づたいに起こることが多いのです。
・あまり話を広げるのも難なので、とりあえず「管の中を液が流れている」とご理解下さい。
●循環不全
・流れが滞れば病気が起こります。いろいろな疾患がありますが、理解のためには、
先に挙げた管の種類とレベル、停滞が可逆性か不可逆性か、という視点は欠かせません。
・血管なら、攣縮は可逆的な過程ですが、血栓などで閉塞すれば不可逆的なことがあります。
リンパ管は先天性奇形や手術侵襲のように、不可逆的な変化が問題になる例が多いです。
・たとえば狭心症(心筋の虚血)でも、攣縮による場合と血栓による場合は大いに違います。
虚血の症状が梗塞(組織の壊死。皮膚では「壊疽」とも言います)に至れば、一大事です。
不可逆的な血管の変性を、いかに器官の終焉にまで繋げずに回復させられるか?
・不可逆的な変化に見えても、生体が本来もつ血栓の再溶解や血管新生などの代償作用で、
必ずしもオワリではありません。「あきらめないで。」
ただこの件に関しては、自然に任せるよりも人為の介入が望ましいケースが増えてます。
・循環の不可逆的な変化は、皮膚にぬり薬を塗っても治りません。が、皮膚を診て診断し、
適切な人為的介入を支援し、介入しきれない微妙な部分をサポートする、
ここに皮膚科医の存在意義があると考えております。
個々の疾患に進む前に、長くなりすぎてしまいました。
このテーマはひろく深いので、次か、次の次に、続編を予定しております。
ひとつ申し上げられることは、皮膚科だけの問題では済まない、ということです。
わたくしも東京に移ってから1年弱で、連携できる循環スペシャリストの先生方には、
まだあまり知己がございません。 が、
おとなり阿佐ヶ谷の河北総合病院様には、素晴らしいご対応を頂きました。
この場を借りて御礼申し上げます。(この場を借りてはいけないとは思いつつ。)
もし腕に覚えの医療機関様がありましたら、手紙など頂けますとありがたいです。
一方、「私も循環不全では?」と感じられた患者さまは、遠慮なくご来院下さい。
力の及ぶ範囲内ではございますが、サポートさせていただきます。
140306追加:
本稿と関連の深い「おとなのシモヤケ」を加えました。
さらに長くなりすぎたため、お時間のあるときご参照いただけますと幸いです。
150818更新:
自立じゃなくて自律でした。~・